寧ろ滑稽投票を可とす 我輩持論の一なり明治41年発表

議員選挙に就いて妙な投票をする者がある、それは現在の自分に投票せずして、佐倉惣五郎とか加藤清正とか、又石川五右衛門、鼠小僧、菅原道真、など々歴史上の又は稗史中の人物に投票するのであるが、苟も立件国の選挙人たる者が、斯くの如き不真面目なる投票を敢えてするのは、国民の義務たり権利たる選挙の神聖を侮蔑したものであって、実に愚劣極まりなる悪戯である、と云って新聞雑誌などは、大いに之を避難して居る
しかし投票する者の精神から云えば、選挙権は固より尊重すべきものに違いないが、現在に於いて候補者だと自分で名乗る奴には、一疋としてロクな者はない、而も外に立派な理想的人物を求めて、それに投票しようとしても、三人や五人の少数投票では、見す見す悪魔の為に敗を取るよりも、どうせダメなものなら、寧ろ風刺的に昔の人物に投票して天下を馬鹿にしてやろうと、糞ヤケ半分に右の如き滑稽投票をやるのである

宮武外骨